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定価:2,750円(2,500円+税)
判型:四六
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内容紹介
地域有力者による「まとめあげ」
――――「厄介」な分配問題をめぐって ――――
「自助」「自立」「扶養」などを基調とする日本の福祉においては、人々にお金やモノなどの資源を分配するさい、地域有力者による「まとめあげ」が、戦後も引きつづき行なわれてきた。地域において、お金やモノなどを、誰に、どれだけ分配するかをうまく調整し、実際に差配できたのが、この地域有力者なのである。とりわけ、五五年体制以降の自民党政権は、戦前から続くこの「まとめあげ」を、セーフティネットに見せかけた経済政策として、たえず乱用してきた。
しかし、このような「まとめあげ」は、ほんとうに支援が必要な人に、資源が分配されにくい地域対策であった。戦前がそうであったように、人々は、自分や家族や仲間の生存がおびやかされれば、地域有力者にすがるしかないのである。ふるいにかけられ、「まとめあげ」からこぼれおちてしまった人々は、徹底的に差別されながら、活〔い〕かさず殺さずの困窮を強いられることになる。そして、生活困窮者がとりのこされつづける場所として、「地域なるもの」が形成されていくのである。そのため、「スラム化 → 地域対策 → 再スラム化 → 地域対策」という、悪循環をたどったのだ。
とはいえ、地域有力者による「まとめあげ」に対して、「既得権だ!」といった浅薄な批判を投げつけるだけでは、わたしたちは、この悪循環をすこしも改善できないことも確かである。まずは、とりのこされた地域をめぐる政策や対策の歴史について、わたしたち一人ひとりが、知り、学び、語りあうことから始めるほかないであろう。「まちづくり」のただなかにいる住民たちによって、何が問われ、何が問われなくなってしまったのかを、あらためて問い直す必要があるのだ。
もし、強権的な政治手法に「厄介な分配」を丸投げする安易さに流されれば、わたしたちは、超高齢社会と住宅老朽化にともない、既視感のある貧困と差別とを、いま以上に経験することになるだろう。
* * *
概 要( 詳しい目次は「目次」をご覧ください。)
◆序 章 本書で述べていくこと
◆第1章 生存保障システムの変遷
身分制度の再編成
部落改善から地方改善へ
生存保障システムの体制化
戦後復興と同和政策
◆第2章 ローカルな生存保障
大阪特有の施策
大阪住吉における生活状態
◆第3章 乳児死亡率の低減
地方改良と融和運動
民間金融のひろがり
公的貸付制度の展開
国家の介入と救済?
◆第4章 再分配システムの転換
摩擦の経緯
一九六二年、摩擦のはじまり
調停者としての天野要
分配方式をめぐる争い
◆第5章 再分配をめぐる闘争
「天野事件」とその背景
「天野事件」の発端と推移
◆第6章 再分配システムの果てに
「住吉計画」の設計思想
高度経済成長という時代背景
不良住宅地区改良法から住宅地区改良法へ
◆終 章 支援を必要とする人のために――戦後部落解放運動を問い直す
――――「厄介」な分配問題をめぐって ――――
「自助」「自立」「扶養」などを基調とする日本の福祉においては、人々にお金やモノなどの資源を分配するさい、地域有力者による「まとめあげ」が、戦後も引きつづき行なわれてきた。地域において、お金やモノなどを、誰に、どれだけ分配するかをうまく調整し、実際に差配できたのが、この地域有力者なのである。とりわけ、五五年体制以降の自民党政権は、戦前から続くこの「まとめあげ」を、セーフティネットに見せかけた経済政策として、たえず乱用してきた。
しかし、このような「まとめあげ」は、ほんとうに支援が必要な人に、資源が分配されにくい地域対策であった。戦前がそうであったように、人々は、自分や家族や仲間の生存がおびやかされれば、地域有力者にすがるしかないのである。ふるいにかけられ、「まとめあげ」からこぼれおちてしまった人々は、徹底的に差別されながら、活〔い〕かさず殺さずの困窮を強いられることになる。そして、生活困窮者がとりのこされつづける場所として、「地域なるもの」が形成されていくのである。そのため、「スラム化 → 地域対策 → 再スラム化 → 地域対策」という、悪循環をたどったのだ。
とはいえ、地域有力者による「まとめあげ」に対して、「既得権だ!」といった浅薄な批判を投げつけるだけでは、わたしたちは、この悪循環をすこしも改善できないことも確かである。まずは、とりのこされた地域をめぐる政策や対策の歴史について、わたしたち一人ひとりが、知り、学び、語りあうことから始めるほかないであろう。「まちづくり」のただなかにいる住民たちによって、何が問われ、何が問われなくなってしまったのかを、あらためて問い直す必要があるのだ。
もし、強権的な政治手法に「厄介な分配」を丸投げする安易さに流されれば、わたしたちは、超高齢社会と住宅老朽化にともない、既視感のある貧困と差別とを、いま以上に経験することになるだろう。
* * *
概 要( 詳しい目次は「目次」をご覧ください。)
◆序 章 本書で述べていくこと
◆第1章 生存保障システムの変遷
身分制度の再編成
部落改善から地方改善へ
生存保障システムの体制化
戦後復興と同和政策
◆第2章 ローカルな生存保障
大阪特有の施策
大阪住吉における生活状態
◆第3章 乳児死亡率の低減
地方改良と融和運動
民間金融のひろがり
公的貸付制度の展開
国家の介入と救済?
◆第4章 再分配システムの転換
摩擦の経緯
一九六二年、摩擦のはじまり
調停者としての天野要
分配方式をめぐる争い
◆第5章 再分配をめぐる闘争
「天野事件」とその背景
「天野事件」の発端と推移
◆第6章 再分配システムの果てに
「住吉計画」の設計思想
高度経済成長という時代背景
不良住宅地区改良法から住宅地区改良法へ
◆終 章 支援を必要とする人のために――戦後部落解放運動を問い直す
目次
【はじめに】
【序 章】 本書で述べていくこと
目的と方法
先行研究と本書の課題
大阪における社会政策と社会運動に関する研究
大阪における部落とスラムに関する研究
住吉区に関する研究
住吉部落に関する研究
住吉のまちづくり
本書の構成
【第1章】 生存保障システムの変遷
◆ 身分制度の再編成
前近代の身分制度
近代国家の成立と伝染病対策
近代国家と良民社会の形成
◆ 部落改善から地方改善へ
下からの取り組み
下からの取り組みへの統制
融和政策への政策転換
生存にかかわる問題
大阪における施策
地区改善事業
◆ 生存保障システムの体制化
暗黒時代へ
融和政策の展開
◆ 戦後復興と同和政策
「五五年体制」における同和対策
【第2章】 ローカルな生存保障
◆ 大阪特有の施策
大阪・部落・スラム
部落改善事業から地方改善事業へ
地方改善部から中央融和事業協会へ
隣保事業の展開
国家総動員体制――融和事業から同和事業へ
◆ 大阪住吉における生活状態
『都市部落の人口と家族』
「都市的性格」としての社会移動
住吉地区における乳児死亡率
【第3章】 乳児死亡率の低減
◆ 地方改良と融和運動
地方改良
米騒動と住吉
住吉では水平社ができなかった
住吉仏教青年会
地方改善地区整理事業
◆ 民間金融のひろがり
◆ 公的貸付制度の展開
大阪の社会事業と公的庶民金融
大阪庶民信用組合
市設質舗
質屋ニ関スル調査
質屋ト金貸業
市設質舗の利用状況に関する調査
愛隣信用組合
◆ 国家の介入と救済?
融和事業一〇ヵ年計画
大阪住吉における融和運動
町内会・部落会の大政翼賛会への編入
【第4章】 再分配システムの転換
◆ 摩擦の経緯
◆ 一九六二年、摩擦のはじまり
◆ 調停者としての天野要
住吉部落との関係
その人物像
住吉連合町会長という役割
◆ 分配方式をめぐる争い
【第5章】 再分配をめぐる闘争
◆「天野事件」とその背景
事件に至るまで
「問題」の拡大
◆「天野事件」の発端と推移
事件の始まり
闘争の拡大
【第6章】 再分配システムの果てに
◆「住吉計画」の設計思想
反都市としての共同体の想像
スクラップ・アンド・ビルド
◆ 高度経済成長という時代背景
二重構造の中での部落エリア
戦後レジームにおける生存をめぐる政策
不良住宅改良事業の継承
対象者の困難な選定
対象エリアの拡大
住宅建設・教育問題・売春防止・授産所建設
◆ 不良住宅地区改良法から住宅地区改良法へ
地域における福祉問題の再発見
隣保館の復活と機能強化
同和事業の効果測定
住居と福祉の関係
福祉と部落問題
部落と医療問題
【終 章】 支援を必要とする人のために――戦後部落解放運動を問い直す
註/ 文献一覧/ あとがき/ 索 引
【序 章】 本書で述べていくこと
目的と方法
先行研究と本書の課題
大阪における社会政策と社会運動に関する研究
大阪における部落とスラムに関する研究
住吉区に関する研究
住吉部落に関する研究
住吉のまちづくり
本書の構成
【第1章】 生存保障システムの変遷
◆ 身分制度の再編成
前近代の身分制度
近代国家の成立と伝染病対策
近代国家と良民社会の形成
◆ 部落改善から地方改善へ
下からの取り組み
下からの取り組みへの統制
融和政策への政策転換
生存にかかわる問題
大阪における施策
地区改善事業
◆ 生存保障システムの体制化
暗黒時代へ
融和政策の展開
◆ 戦後復興と同和政策
「五五年体制」における同和対策
【第2章】 ローカルな生存保障
◆ 大阪特有の施策
大阪・部落・スラム
部落改善事業から地方改善事業へ
地方改善部から中央融和事業協会へ
隣保事業の展開
国家総動員体制――融和事業から同和事業へ
◆ 大阪住吉における生活状態
『都市部落の人口と家族』
「都市的性格」としての社会移動
住吉地区における乳児死亡率
【第3章】 乳児死亡率の低減
◆ 地方改良と融和運動
地方改良
米騒動と住吉
住吉では水平社ができなかった
住吉仏教青年会
地方改善地区整理事業
◆ 民間金融のひろがり
◆ 公的貸付制度の展開
大阪の社会事業と公的庶民金融
大阪庶民信用組合
市設質舗
質屋ニ関スル調査
質屋ト金貸業
市設質舗の利用状況に関する調査
愛隣信用組合
◆ 国家の介入と救済?
融和事業一〇ヵ年計画
大阪住吉における融和運動
町内会・部落会の大政翼賛会への編入
【第4章】 再分配システムの転換
◆ 摩擦の経緯
◆ 一九六二年、摩擦のはじまり
◆ 調停者としての天野要
住吉部落との関係
その人物像
住吉連合町会長という役割
◆ 分配方式をめぐる争い
【第5章】 再分配をめぐる闘争
◆「天野事件」とその背景
事件に至るまで
「問題」の拡大
◆「天野事件」の発端と推移
事件の始まり
闘争の拡大
【第6章】 再分配システムの果てに
◆「住吉計画」の設計思想
反都市としての共同体の想像
スクラップ・アンド・ビルド
◆ 高度経済成長という時代背景
二重構造の中での部落エリア
戦後レジームにおける生存をめぐる政策
不良住宅改良事業の継承
対象者の困難な選定
対象エリアの拡大
住宅建設・教育問題・売春防止・授産所建設
◆ 不良住宅地区改良法から住宅地区改良法へ
地域における福祉問題の再発見
隣保館の復活と機能強化
同和事業の効果測定
住居と福祉の関係
福祉と部落問題
部落と医療問題
【終 章】 支援を必要とする人のために――戦後部落解放運動を問い直す
註/ 文献一覧/ あとがき/ 索 引
著者略歴
矢野 亮(ヤノ リョウ yano ryou)
矢野 亮 Yano Ryo
1976年、大阪の住吉に生まれ育つ。専門は、福祉社会学、社会福祉学。
関西学院大学院総合政策研究科総合政策専攻博士課程[前期]修了(総合政策修士)。大阪府立大学大学院人間社会学研究科社会福祉学専攻博士課程[後期]中退。立命館大学院先端総合学術研究科一貫性博士課程3年次編入・修了(博士[学術])。日本学術振興会特別研究員(DC2)、大阪国際福祉専門学校社会福祉士養成通信課程専任講師を経て、現在、龍谷大学・関西大学ほか非常勤講師、(公財)世界人権問題研究センター専任研究員。ソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)。
タイトルヨミ
カナ:シカシ ダレガ ドノヨウニ ブンパイ シテキタノカ
ローマ字:shikashi darega donoyouni bunpai shitekitanoka
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