洛北出版 我が社の一冊 2017
- 飯場へ
- 渡辺拓也
- 洛北出版
- 978-4-903127-26-2
出版社からのおすすめコメント
著者(=「僕」)みずからが、「飯場(はんば)」の暮らしと労働の現場に飛び込んで、そこで体験したことを記録し考察した、臨場感ふあれる書物です。また、高校以上で習う漢字には読み仮名ルビをつけたり、平易な表現や数多くの図版を用いたりするなど、これから職に就く若いひとにも手に取ってもらえるよう、さまざまな工夫をほどこしております。
以下は、主な書評です。
2017-08-27 朝日新聞、評者:佐伯一麦(作家)―― 体験ルポと考察の“私民族誌”
2017-08-20 信濃毎日新聞、評者:安岡健一(大阪大学)―― 人間関係の機微、繊細に捉える
2017-08-18 週刊読書人、評者:好井裕明(日本大学)―内容紹介
仕事ができない自分が、悪いのか?
それとも、アイツが、ダメなのか?
―― 他人と「共に働く」ことの、喜びと違和。
―― 共同性を育む、他人への信頼と期待。
* * *
「生産性を上げろ」という過酷な要求、上からの理不尽な圧迫と合理化、職場内の不当な排除行為。
職場の共同性は、どんどん切りつめられ、現場は、ささくれだっていく。
私たちは、この状況を、どのように押し返していけばよいのだろうか?
本書は、飯場の一人ひとりの労働者が置かれた関係性に注目し、この問いに、真摯に迫っている。
飯場とは、多くの労働者にとって、一時的な滞在場所であり、滞在期間に長い短いはあっても、入る時には出ることが念頭にあるといってよい。
では、いったい、どういうルートで飯場に入るのだろうか。
どんな労働条件で仕事(主に建設労働)をしていくのだろうか。
どういった暮らしをおくることになるのか。
どのような人たちと出会い、そして……、飯場を出て行くのだろうか。
飯場で出会った一人ひとりの労働者たち――。すなわち、赤木さん、浅井さん、有村さん、磯村さん、井上さん、武(ウー)くん、上山さん、江口さん、遠藤さん、太田さん、大塚さん、小川さん、奥野さん、柿田さん、片桐さん、門脇さん、亀田さん、苅田くん、川野さん、川端さん、岸川さん、木戸さん、倉田さん、黒田さん、小池さん、孔(コウ)くん、小宮さん、斉藤さん、桜井くん、重岡さん、篠田さん、篠原さん、志村さん、江(ジャン)くん、白井さん、白木さん、杉浦さん、杉森さん、須藤さん、角谷さん、高田さん、高橋さん、田村さん、湯(タン)くん、坪井さん、鶴田さん、寺岡さん、富樫さん、中居さん、中野さん、中村さん、中山さん、野中さん、野村さん、羽田さん、濱田さん、原口さん、東野さん、平田さん、深川さん、藤田さん、正木さん、増田さん、松川さん、松本さん、水野さん、三田さん、森さん、保田さん、山野井さん、横溝さん……。
著者=「僕」は、かれらと共に働きながら、その一人ひとりの言動に視線をそそぐ。
かれらにある、一瞬の繊細な気配り、隠された冷やかさ、見返りを求めない手助け、耐えがたい混乱、息を飲む率直さ、抑えがたい苛立ち……。これら一人ひとりの言動が、共に働く現場において、固有の関係性を紡ぎあげている。この関係性を「理解」するために、「僕」は、体験を記録し、その意味に気づき、そして考察を、厚く、重ねていく。
この本は、まずは、飯場の暮らしと仕事のありようを、著者=「僕」の飯場体験にもとづいて、「僕」の視点(身体を通した経験)から、くわしく描きだす。つづいて、この飯場体験の「記録」をふまえ、不当な排除がおこなわれる過程と仕組みについて、精巧に考え抜いていく。
それぞれの職場で働く一人ひとりの個人が、「記録」して「気づき」、そして「理解」するという、この「誰にでもできる」やり方に取り組むこと――。そこから始めてようやく、共同性を育むいとぐちに就くことができるのではないだろうか。
* * *
――「土工〔どこう〕の経験あるんか?」、
――「土工なめとったらあかんで」、
――「バカじゃ土工はできんのですよ」。
「〈誰にでもできる〉ようなことは侮〔あなど〕られ、低く見られがちである。それでも、いや、だからこそ、〈誰にでもできる〉ようなところから始めるべきだと、僕は思う。」――〔本文より〕- http://www.rakuhoku-pub.jp/book/27262.html