発売してから、どうですか(仮)
近刊検索デルタで発売前に話題になった本の書店や読者からの反響や、発売後の売れ行きなどを追っかけます。月イチ更新(予定)
今回はゲーム理論を扱った専門書でありながら刊行前から多くの注目を集めた一冊です。
第10回 日本評論社『ゲーム理論はアート』 松島斉
1.発売前の反応はいかがでしたか?
ゲーム理論とは、複数のプレイヤーが相手の手の内を読んで、自分の利得を最大限に高くするための方策を求める経済学の理論。「交渉」や「戦略」もうまくなるとビジネスの世界でも注目を集め、さらに政治学、生物学など、経済学以外の分野にも広がっています。
本書の著者である松島 斉・東京大学大学院経済学研究科教授は、ゲーム理論研究者の中でも「人間の心理」の問題まで取り込んだ理論で世界的に活躍する研究者。その松島教授による初の一般向けの著作ということで、刊行前から研究者、学生の方に注目されていました。Amazonでの予約も多く、2か月前に書店に刊行案内を送ると、通常の経済学書の倍以上の注文が集まりました。
2.発売後の読者や書店からの反響をお聞かせください。
2018年1月の発売後すぐ、2月18日付読売新聞に、坂井豊貴・慶應義塾大学教授の書評(社会事象の「なぜ」説明)が掲載。売れ行きが上がりすぐに増刷が決まりました。
その後『週刊エコノミスト』3月6日号で柳川範之教授、3月4日付『毎日新聞』で大竹文雄教授と経済学者による書評が続き、4月7日付『日本経済新聞』藤田康範教授による書評でさらに火が点き、3刷にかかりました。
「ゲーム理論」と「アート」という一見異質なものの組合せである書名や、経済問題に限らず、いじめ、全体主義、監視社会といった社会問題も扱ったことで、ゲーム理論を学んでみたいと思う一般読者にも最初に手に取っていただく本となったようです。
3.本書に続く企画などの予定はありますか?
具体的なプランはないのですが、著者は続編のアイデアはあり、近いうちに形にしたいと考えています。
4.増刷の予定などがあれば、さしつかえのない範囲でお知らせください。
2018年12月に『日本経済新聞』の「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」で5位に選書されたため、定番となり、その後もコンスタントに売れ続けています。さらなる増刷の日も近いと期待しています。
5.この本を読まれた読者にオススメしたい本はありますか?
ゲーム理論に興味を持ったら、しっかり経済学を身につけるために、神取道宏著『ミクロ経済学の力』にぜひチャレンジしていただきたいと思います。500頁を超える大部な本ですが、東大で大人気の講義をベースにしているので読みやすく、後半はゲーム理論の解説になっています。
社会問題、経済問題に関心を持ったら日経BP社様の『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』(伊神 満)もオススメです。「なぜ優良企業は新世代の技術競争に敗れ去るのか?」という疑問に答えるスリリングな一冊です。
また、著者はもともと『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)を意識して執筆していることもあり、社会を変えたいなどの問題意識を持っている人にはそちらも読んでもらいたいと思います。
日本評論社のMさん、ありがとうございます。専門的な内容でも思いもよらないほど広いジャンルをカバーする定番となることがあります。どうやら、この本もそういうところにはまってきたようです。
「発売してから、どうですか(仮)」では、今後も、発売前に話題を集めた本の発売後を追いかけます。次回は7月中旬公開予定。ご期待ください。
ゲーム理論はアート
社会のしくみを思いつくための繊細な哲学
松島 斉 著
2018年1月発売
978-4-535-55892-2
日本評論社
ミクロ経済学の力
神取 道宏 著
2014年9月発売
978-4-535-55756-7
日本評論社
「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明
伊神 満 著
2018年5月発売
978-4-8222-5573-2
日経BP
君たちはどう生きるか
岩波文庫
吉野 源三郎 著
1982年11月発売
978-4-00-331581-1
岩波書店