近刊検索 デルタ

発売してから、どうですか(仮)

近刊検索デルタで発売前に話題になった本の書店や読者からの反響や、発売後の売れ行きなどを追っかけます。月イチ更新(予定)
今回は限定発売600部の詩文集ということで、グッとコアな読者と書店に向けて限りなくピンポイントで発信された近刊の発売前と発売後を伺います。

第12回 共和国『薔薇色のアパリシオン』冨士原清一

1.発売前の反応はいかがでしたか?

本書はもう少し早く刊行する予定だったのですが、戦前のマイナーポエットのなかでもとりわけマイナーなシュルレアリスム詩人の著作集とはいえ、新聞広告やウェブなどで告知をしてもまったく反応がなく、事前注文もずーーーっと100部に満たず、厳しかったですねえ。刊行直前になってこの「近刊検索デルタ」で何度か1位を獲得したのにはびっくりしました(笑)。結果、事前130部ほどの段階で、予価より1000円アップの本体6000円、部数も「600部限定」として見切り発車しました。

2.発売後の読者や書店からの反響をお聞かせください。

ツイッターを中心になんとか売り切りたいとアピール中で、おかげさまで好評を頂戴しているようです。こうしたマニアックな詩集を好むセレクト・ブックショップから取引の注文が来たのも、うれしいことでした。この本は比較的高額ですが、それだけにこの詩人の表現と真剣に向き合ってもらえるのでは、と期待しています。売れる/売れないのまえに、冨士原清一というシュルレアリストがいたことを歴史として定着させることができれば、本書の目的は達成です。
あと、批判的な反応として典型的なものですが、某巨大オンライン書店に匿名の人がまったく勘違いなレビューを得々と掲出しているので、消え去るまえに探して読んでみてください。「知らない」ことは恥ずかしいことではありませんが、詩についても出版についても鈍感なこういう評が蔓延するなかで、少しでもまともな本を出すことのおもしろさは、零細ワンオペ版元ならではでしょうね。この手の自称レビュワーたちには手も理解も届かないような本を、これからもじゃんじゃん出版してさしあげましょう。

3.本書に続く企画などの予定はありますか?

本書の売れ行きにかかわらず、いくつか準備している企画はあります。ただし、マイナーポエットがマイナーで終わったことにもそれなりの理由はあります。重箱の隅をつつくようなことではなく、何年経っても読み返すに足りる表現へのこだわりを、こちらが手放さないでいることができるかどうか。

4.増刷の予定などがあれば、さしつかえのない範囲でお知らせください。

(2019年)8月末の発売からまだ1カ月ほどで、新本や書店在庫もまだあるし、これからは返本も見込まれるので、600部完売までにはまだまだ時間がかかりそうです。ただ、この限定600部とは別に、66部だけ「愛蔵版」として、スリップケースやCD-Rを附録としたものを小社サイトから直販する予定です(9月末予定)。それこそ1万2000円くらいになるので、買いたい人だけ買ってくだされば。

5.この本を読まれた読者にオススメしたい本はありますか?

この詩集を手に取るような読者であれば、こちらから推薦や提案をするまでもなく、自分の趣味や好みですでにいろいろな本を手にしていることでしょう。年譜や解題に出てくるすばらしい詩人たちの作品を、ぜひ(新刊での入手が困難であれば古書店で、古書店になければ図書館で)探してみてください。とりわけ詩集は手に取って装釘を愉しむジャンルでもあります。そして自分のお気に入りの詩人の詩集を、こんどは自分なりに編んでみるのも一興でしょう。

共和国のSさん、ありがとうございます。攻めてる感のある刊行物で知られる共和国のカラーが、本稿にも色濃く反映されているのを感じます。それにしても、600部でも大変なんですか、詩集は。キビシイ……。


「発売してから、どうですか(仮)」では、今後も、発売前に話題を集めた本の発売後を追いかけます。次回は10月中旬公開予定。ご期待ください。

薔薇色のアパリシオン

冨士原清一詩文集成

冨士原清一 著
京谷裕彰 編

2019年8月発売

978-4-907986-48-3

共和国


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