1.発売前の反応はいかがでしたか？

発売前の特別な反応はなく、野草社の本としては通常の配本数でスタートしました。小社は、それまでに山尾三省の著作を15冊ほど刊行しています。山尾さんは70年代に家族とともに屋久島に移住し、耕し、詩作し、祈る暮らしを続けた詩人です。2001年にお亡くなりになったのですが、関わりの深い特別な著者のひとりで、そのことばを広く世の中に届け続けたいと願いつつも、没後10年以上たって本の売上は低迷しているという課題を抱えていました。2018年はちょうど詩人の生誕80年という節目の年。この機会に新しい読者を獲得することを目的に企画したのが、『火を焚きなさい』という詩文集です。

2.発売後の読者や書店からの反響をお聞かせください。

発売後にも大きな反響があったわけではなく、やきもきする状態が続きました。ところが大型書店の担当者から独立系の個人書店の店主まで、さらに読者の方々が、TwitterやInstagramなどに本の写真と感想をこつこつと投稿してくださり、それが途切れることなく続きました。アウトドア好きの読者が、野山や焚火の風景とともに本の写真を撮影し、SNSにアップするという例も。いわゆる「インスタ映え」の現象を引き起こしたのですが、これは画家のnakabanさんに装画として描いてもらった「炎」の絵の力、それを巧みにデザインしていただいた文京図案室の三木俊一さんの技によるところが大きいと考えています。

3.本書に続く企画などの予定はありますか？

書店からはコンスタントに注文が入り、返品率も比較的低いので、いまの時代にも山尾三省のことばを求める読者はいるのだろうと思います。2019年5月に続編となる詩文集『五月の風』（解説は批評家の若松英輔さん）を刊行し、また年内に、小社より1987年に出した詩集『びろう葉帽子の下で』の新版（解説は人類学者の今福龍太さん）も刊行予定です。これで山尾さんの生誕80年記念の出版企画はひとまず完結です。

4.増刷の予定などがあれば、さしつかえのない範囲でお知らせください。

『火を焚きなさい』は2018年10月に初刷2500部を発行、2019年6月に2刷1500部を重版しました。一般的に詩の本を売るのは難しいと言われていることもあり、初刷刊行後1年間で実売70%達成を目標に掲げていたので、８か月後の重版は予想外でした。新聞書評などメディアで大々的に宣伝・紹介されることはありませんでしたから、書店員や読者のみなさま、本や文学を愛する方々の目によって見出していただき、草の根的な口コミの力によって着実に広まったのだと思います。

5.この本を読まれた読者にオススメしたい本はありますか？

『火を焚きなさい』には、nakabanさんの描き下ろしの漫画やイラスト、布作家の早川ユミさんの解説など、詩の読者以外にも楽しんでもらえるような仕掛けを盛り込みました。いわゆる純粋な「詩集」を手に取ることに難しさを感じる方には、山尾三省のエッセイ集をおすすめします。宮沢賢治をテーマにしたのが『野の道』、家族や仕事をテーマにしたのが『狭い道』。どちらも読みやすい内容で、「嘘のない人間の生活」を求めた詩人のことばを味わうことのできる本です。
詩や文学を通じて、もう一歩深く「生きること」を考えてみたいという方には、若松英輔さんの随筆集『悲しみの秘義』（ナナロク社）を推薦します。私自身、なんども読み返している大切な一冊です。

野草社のAさん、ありがとうございます。詩集を売り続けるのは本当に大変そうですが、周囲の静かな熱が、作品そのものだけでなく、様々な何かを止揚しているようにも思いました。今回の掲載がその熱を読者に伝える一助となれば幸いです。

「発売してから、どうですか（仮）」では、今後も、発売前に話題を集めた本の発売後を追いかけます。次回は11月中旬公開予定。ご期待ください。